『雨を告げる漂流団地』つれづれ02
カルトSFアニメ『ファンタスティック・プラネット』(1973)で有名なルネ・ラルー監督にはもうひとつ『時の支配者』(1982)というSFアニメがある。遠い過去に見たきりなので記憶はあいまいだが、だいたいこんなストーリーだ。
「事故で宇宙を漂流していた少年がたどり着いた星で老人に出会う。終盤、少年は数十年前の過去に飛ばされ、その星で老人となり、漂流してきたかつての自分である少年を迎え入れる」
漂流団地のキャラ設定や初期バージョンの予告を見た僕は、ああこういう路線なんだねと予想した。謎のキャラクターのっぽ君は取り壊される団地の化身であると同時に主人公たちが慕っていた老人・安じいの若き日の姿でもある、と。その予想の半分は当たったといえるし、半分ははずしたともいえる。
のっぽ君が団地の化身(各所で付喪神〈つくもがみ〉という表現もされてますね)であることはストーリー上あきらかだし本人も名言してるし、ここは間違いないだろう。安じいとの関係はどうだろう?短パン、いや当時ふうに半ズボンと呼ぼう、それとおかっぱ頭はちょうど団地が作られたころの少年のファッションであると同時に、安じいの少年時代と考えても無理はない。のっぽの回想する「二人を見守ってきた」というのも安じいの立場そのままだ。 夏芽の立場から見ても「のっぽ君 ≒ 団地 ≒ 安じい」であり、もう失いたくない、別れたくない存在の象徴になっている。
制作初期のキャラクター原案ではのっぽ君はのっぽではなく航祐や夏芽とかわらない平均的な身長だ。なぜのっぽ君はのっぽになったのか?団地の各所に林立する給水塔のイメージが投影されたのはたしかだろう。いくつかのショットであからさまに関係が示されてるし、崩れた地盤から鉄骨やコンクリートが積みあがって塔が再生するショットが決定打だ。
そして最近のツイートで読んで初めて気づいたのだが、安じい自身の身長180cmという設定だ。これは「安じい≒のっぽ君」説の強力な傍証だ…
では残り半分の「ハズレ」の要素はなんだろう?劇場パンフレットのインタビューで監督は「夏芽とのっぽ君の距離感に悩んだ」(大意)という。制作のある時点では恋愛に近いところまで行って、これは違うだろうと。二人の関係を探りつつ、さらに航祐との関係を納得のいく形に仕上げていく段階で、のっぽ君から安じい的キャラクターのあからさまな表現が消えていったのではないか、そんな気がしている。だってねえ、なんだかんだで航祐・夏芽とのっぽ君は三角関係ですもの。そこに爺ちゃんが入ってくのは、ちょっとね(笑)
ただ、それでも。嵐の海をくぐりぬけるクライマックスで航祐と夏芽の頭をなでてすり抜けていった老人の後ろ姿は、そのままのっぽ君の後ろ姿と重ね合わせに見えたのです。そう見えませんでしたか?
《結》
『雨を告げる漂流団地』つれづれ01
『雨を告げる~』この奇妙で妙に記憶にひっかかるタイトルを命名したのはプロデューサーにしてツインエンジンのドン、山本幸治氏だとか。アニメファンとしてはどうしても同氏がチーフプロデューサーとして関わった『夜明け告げるルーのうた』(湯浅政明監督作品、2017年)を思い出さずにはいられない。この二作になにか共通点はあるだろうか?
ストーリーはほとんどおぼえてない。ただ印象深くおぼえているのが…クライマックス、水難事故とおぼしき状況から主人公たちが人々を救い出すファンタジックなシーンだ。東北大震災の壮絶な記憶から6年、ああこれは鎮魂のアニメでもあったのだなと思ったのをおぼえている。
翌2018年、やはり山本幸治氏プロデュースのもと制作された『ペンギン・ハイウェイ』ではクライマックスで ” 海 ” が崩壊し、住宅街の坂道をすごい勢いで水流がかけおりていく。すべて終わったあとの混乱と破壊(とみせかけた修復)に、おりしも西日本の各地を襲った豪雨被害のイメージがかぶったのは、もちろん偶然なのだけれど奇妙な縁だとおもった。
さて、『雨を告げる漂流団地』だ。少年少女たちが決死の冒険のはてにたどりついた場所、青や緑の幻想的な光につつまれた古い建築物や廃墟が集合する異世界・異界の光景に、僕には東北大震災のすさまじい惨禍の光景がかぶって見えてしまった。作者である石田監督以下のスタッフに、そういう意図があったのかはわからない。ただ、そう見えた。
『雨を告げる漂流団地』つれづれ
バランスが取れてるな、と思った。
『ペンギン・ハイウェイ』についてアニメスタイルでのインタビューで石田祐康監督が答えていわく、「真面目いっぽんやりのアオヤマ君だけど、そのままではみていて窮屈なのでたまに顔を崩してます。意識的に、大胆に」(大意) もちろんやりすぎるとアオヤマ君のキャラが壊れてしまうのでバランスが重要なのだけれど。そのバランス感覚が絶妙で、同じことが『雨を告げる漂流団地』にもいえると思った。
ただし今は表情の話ではない。クライマックスでイカダに残された5人がそれぞれの家族の幻影を見る場面だ。強い逆光でそれぞれのシルエットとおぼろげな顔の雰囲気が察せられるぐらいで、細かいとこまでは判別できない家族の姿。観客にとって、ここでそれぞれの家族の個々のキャラクタについての情報は不必要だ。「いきなりそんなこと言われても、ねえ」だ。少年少女たちにとってかけがえの無い家族が待っている、そのことだけが伝わればいい。 だから初登場の彼らはおぼろげにシルエットが浮かぶだけなのだ。 航祐と夏芽の母親はすでに登場ずみなのではっきり見せている。 バランスというか単にストーリーテリングのイロハみたいな話かもしれない。
音楽発注のためのリストからの抜き書き(チャプター6以降)
<続き>
C737 - 742
不思議・海 (削除されたシーン)
C743 - 800
ペンギン号
C812 -831
プロミネンス
C909 -926
円環の川・ジャバウォック
C927 -961
巨大化する海1
C991 -1004
デート
C1018 -1029
ジャバウォック
C1077 -1129
奪われる研究
C1156 -1165
巨大化する海2
C1184 -1190
うなされる
C1190 -1197
悪夢
C1251 -1291
脱出
C1296 -1324
研究発表
C1325 -1370
ペンギン・パレード
C1376 -1413
世界の果て
C1427 -1435
海の崩壊
C1456 -1462
だれもいない街
C1462 -1493
お別れ
C1518 -1548
日常へ
C1551 -
エンディング
<以上>
音楽発注のためのリストからの抜き書き(チャプター1~5)
ササユリカフェで展示された『ペンギン・ハイウェイ』関連資料より、音楽発注のためのリスト(ラインあるいはメニューとも呼ばれています)から、シーン番号と楽曲のタイトル(目安程度です)を抜き出しました。
C1 - 32
アオヤマ
C37A - C63
OP
C131A - 150
姉
C166 - 171
目標
C178 - 180
街中
C181 - 212
カフェ
C221 - 241
探索
C253 - 266
ペンギン発見
C273 - 301
スズキくん帝国
C318-329
かわいがり
C334 - 336
ペンギン誕生
C341A - 342B
最初の夢
C344B - 354
素敵な課題
C424A - 428B
ペンタ
C429 - 445B
ペンタを連れて
C460 - 467
コウモリ
C471 - 479
実験成功
C538 - 552
世界のしまい方
C595 - 604
森
C604 - 621
<海>
C623 - 694
夏休み
<前半ここまで>
劇中と同じ順番でのプレイリスト
(番号と曲名はサウンドトラックCDに準拠します)
02. 天才少年の朝
01. ペンギン・ハイウェイのテーマ
05. マドンナ
06. お姉さん
13. 海辺のカフェ
03. プロジェクト・アマゾン
04. ペンギン発見
15. 帝国の逆襲
12. かわいがり
07. 最初の夢
16. ペンタを連れて
08. 実験成功
09. 世界のしまい方
10. 未知との出会い
11. 夏休み
14. ペンギン号、<海>へ
17. プロミネンス
18. 全て一つの問題
19. 円環の川
20. 海辺の街へ
21. ジャバウォック
22. 奪われる研究
23. 悪い夢
24. エウレカ
25. 脱出
26. 研究発表
27. ペンギン・パレード
28. 世界の果て
29. <海>の崩壊
30. 誰もいない街
31. これからの研究課題
以上
■
11/25(日)出町座でのスペシャルトークのメモ&覚え書き その2
・監督「『トリップ・トラップ・マップ』はアニメーションの根源的な”動くことのよろこび”に溢れている。『rain town』は世界観の表現を優先したのでどうしても動きの要素が犠牲になる。そこはかなわないところだ」
・上田氏「監督によって脚本の分量は変わる。石田監督は間合いが長いので脚本の分量は少ない。湯浅政明監督だと30分のつもりで渡した脚本が15分で消化されてもう一本分要求されるのでしんどい(場内笑い)」
・上田氏「エウレカは・・・アレ実はよくわからないよね。雰囲気で流されてわかった気にさせられるけど、実はよくわからない(笑)」
監督「そこをアニメの力技というんでしょうか・・・そこまでのシーンの流れやアオヤマ君の表情、あと音楽の力も借りて、カメラも足元からじっくりパンアップさせたりでそれっぽく、なんとか(笑)」
・わからないものはわからないままで残す。「わからなさ」を大事にした。
・上田氏「実写の場合は役者と脚本のせめぎあいというのがあって。役者が立派すぎると脚本がジャマになる。脚本はシンプルにしておいて演技合戦してもらおう、ということになる。アニメはどうだろう?」
このあたりからは初期段階の絵コンテをスクリーンに投影しながら話が進められる。
ファンにはおなじみのイメージがこの段階でかなり完成しているのが見てとれる。
・上田氏「ね?こういうのが最初から出来上がっちゃってるんだから、脚本家のする仕事なんて無かったよ?」
監督「いやこれはハイライトというかサワリのイメージだけなので全然不完全です」
・上田氏「ある程度煮詰めたあとは、脚本を監督に渡してあとはお任せ、という流れだったね」
監督「実際に映画をみていただいてどうでした?」
上田氏「素晴らしかった!・・・でもひとつだけクソ・・・(場内爆笑)いやいや心残りがひとつだけ。夏休みでトランプが飛んでいって川に流れるカットがあるでしょう。あれは円環の川になるんだからうまく使えなかったかなあ、と」
監督「最後のほうで川にひっかかってるトランプのカットはありましたけれど、円環を表現するためのもっとうまいやり方があったかもしれません」
・村山、間崎両氏「夏休みのプールシーンは削ろうという話はでていたのだけれど、監督がガンとして譲らなかった。シナリオ上どうしても必要なシーンだとは思われなかったのに」
監督「あれは理屈じゃなくて、どういうんだろう・・・(言葉を探す監督)映画を作るうえで情動に従うべき瞬間、というのがあるんです」
・上田氏「ノートがずいぶんたくさん出てくるけれど、大変よね。手がスライドするだけじゃなくてちゃんとアニメーションしている」
監督「文字を書く手のアニメーションは大変です。村山君に任せました。細かい動きを何パターンも見事にやってくれました」
・監督「(ペンギンパレードの初期イメージを示しながら)原作では一頁たらずのシーンです。ペンギンは走ったりしませんし、二人を乗っけたりもしません。それがああいうダイナミックなシーンになったのは上田さんが打ち合わせで”ペンギンパレード”と名付けてくれたおかげです。そこからイメージが広がりました」
上田氏「あれ?そうだったかな?」
・上田氏「 ” 海 ” の中もいろいろヘンテコになってるけど、コーラの自販機が特にいいね。非日常的でふしぎな空間に日常的なアイテムがポツンと入ってるのが」
監督「基本的に青い世界なので、赤い色が絵的に映えると思いました」
・監督「海が崩壊する直前、ペンギンたちがブルッとふるえて伸び上がるところも村山くんが頑張って描いてくれました。CGのコピペじゃありません。数百匹はいたよね?」
村山氏、うなずく
・上田氏「全体としてきっちりとドラマを作ってくるんだけど、ラスト20分で暴走するんだよね。湯浅監督もそうだし、石田監督も(場内笑)」
・監督「長編アニメともなると長い期間アニメーターたちに仕事をしてもらうための強い動機付けが必要になってきますし、同様に強いプレッシャーもかかります。そのあたりのコントロールも今回はうまくいったのかな、と」
・ペンギンパレードでは家が空にあったりいろいろ常識はずれな状態になってるので、背景スタッフとのやりとりには苦労をした。通常一枚で済む背景に50枚重ねて使うところもあった。
・村山、間崎両氏「監督が自主制作出身なので個人でひととおりのプロセスを経験している。スケジュール全体のカロリーコントロール(力の配分)にもその経験が生きたのではないか」
監督「第1パート(序盤)ではペンギンも少ないのでアニメーターもじっくり作品に慣れていく期間だった。ここだけで2、3ヶ月かけた。作品に慣れてきた終盤の第7パートでは半月で終わらせた」
このあたりで予定を10分オーバーしており、スタッフから終了宣言が出る。
場内の拍手に送られて、4氏退場。
(2018.11.29. 村山氏のペンギンと世界の果ての自販機の話を追加)